トロント大学(2011年5月〜2012年3月) 本文へジャンプ


トロント大学(2011年5月〜2012年3月)

高橋は,特定国派遣事業によりカナダ,トロント大学に10ヶ月間の長期滞在(2011年5月9日〜2012年2月29日)をしました.以下は,10か月間の滞在のレポートです.(2012年3月)

  • トロント大学特定国派遣事業 高橋哲

特定国派遣事業とは,日本学術振興会が実施している海外交流プログラムの一つで,本会と海外学術振興機関間の合意に基づき,日本の研究者と該当国の研究者との交流を推進する目的で実施されているもので,現在,インド(アジア地域),カナダ(北米地域),アルゼンチン,メキシコ(中南米地域),オーストラリア,ニュージーランド(オセアニア地域)と15ヵ国からなる欧州地域の国々の計21ヵ国に対して事業実施されています.それぞれの国毎に,受入研究者の分野(自然科学,人文・社会科学等)や期間(2週間,3ヶ月,24ヶ月等)等の条件が既定されています.

今回の派遣において,自然科学分野,特に工学分野での研究課題を重視していたカナダでの滞在を選択しました.具体的な滞在先としては,フェムト秒レーザによるマイクロ加工技術に関する研究で著名な業績をあげているトロント大学のPhotonics Research Group, Peter R. Herman先生にお世話になって,かねてから興味のあった超短パルスレーザと物体の相互作用の解明に関する研究に従事しました.ここでは,微細導波路加工対象として高い可能性を有しているFused Silicaを対象として,数百フェムト秒から数百ピコ秒といった短時間の間に微細加工が進展するメカニズムを観察・計測する実験的手法の探求(Experimental analysis of nano-structuring mechanism of ultrafast pulse energy)を中心に研究を進めました.

また,トロント大学は,専攻横断的な光科学研究所(Institute for Optical Sciences: IOS)を有しており,本研究所により,工学に限らず,基礎物理,生体バイオ等の先端光学技術開発を,縦割り組織にとどめることがなく,効率的に実施することを目指しています.例えば,光学素子取り扱いに関する実習や,多様な光学シミュレーション方法全体を概観できる座学共通講義等の,研究分野に依らず有用な光学共通事項の教育が効率的に運営されるとともに,光に関連した広範な分野の第一人者の招待講演等が密度高く実施されていました.また,広く光関連業種に関する求人情報等の共有がなされていました.この研究所が企画している活動の機会を利用して,スタッフや博士課程学生等の現場研究者ベースでの意見交換が活発に行われている印象がありました.

10ヶ月という研究実施の上では短い期間でありましたが,LAB内の多くの研究者の助けのおかげもあり,最終的には,偏光面を制御した時間差パルス生成ユニットを設計・試作し,この新開発ユニットにより,ある特定の条件下において従来にない加工現象が生じている様子を観察することができました.今後も,本加工現象に関しては,解析を進め,超短パルス微細加工メカニズムのより詳細な解明への糸口にできないか探求していきたいと思っています.また,今回いただいた貴重な経験を活かし,次世代生産科学において基盤の一つである微細加工技術を高い信頼性,従来にない機能性をもって実現するために,微細スケールの現象を高い時空間分解能で観察・計測・評価できる光学応用技術の開発を深めて行ければと思っております.

最後に,研究を進めるにあたっては,LAB滞在を快諾いただき,実験装置開発に関する予算を出していただいたProf. Peter Herman,既設装置の使用方法等々,日々の研究の相談に対応いただいたDr. Jianzhao Li(Senior Research Scientist),Mr. Jason Grenier(PhD Candidate),Mr. Moez Haque(PhD Candidate)に感謝いたします.特にDr. Jianzhao Liには研究業務に限らず,住居決定,娘の現地校入学に関わる諸手続方法の教示に至るまで,公私に亘り,いつも親身にサポートいただき,おかげで充実した10ヶ月を過ごすことができました.本紙面を借りて御礼申し上げます.


トロント大学二大象徴の内の一つのConvocation Hall.学位修了式等の大きなイベントで利用される.本ホール裏側に隣接するGalbraith BuildingにLABがある.写真左端にはダウンタウンのCNタワーが見える.


学位修了式の様子.年3回から4回程度,実施されているようだった.


トロント大学二大象徴の内の一つでロマネスク様式のUniversity College.1859年建築.春から夏にかけては夕刻になると,建物前の広場(Front Campus)で,サッカーや,ソフトボール,アルティミット等が活発行われていた.


1月の雪景色.寒い年は氷点下30度になることもあるらしいが,2012年は寒い日でも氷点下10度程度であった.


加工したマイクロ導波路の評価として分光透過特性解析をしているところ.加工条件として定量的に意識できない,ちょっとした物理環境の違いによっても,分光透過特性がドラスティックに変動し大変興味深かった.


ミーティング風景.横の壁前面がホワイトボードとして利用できる.


ピーター先生の自宅コンドミニアムで開催されたクリスマスパーティ.オンタリオ湖を挟んでダウンタウンの夜景を一望できる.


Institute for Optical Sciencesの実務を一手に担っているDr. Emanuel Istrate(物理系出身で現在は,特にLEDを専門に研究されている).


カナダで一番人気の高いスポーツはアイスホッケー.キャンパス内にも立派なスタジアムVarsity Centreが設置され,他大学との交流試合では,有料チケットも販売される.


有名なナイアガラ瀑布は,トロント市内から,オンタリオ湖沿いに車で二時間ほどの距離にある.


夏季休暇に訪れたカナディアンロッキー


冬季休暇に訪れたケベック州モントランブランスキー場.人口密度が3人/km2程度というカナダの広大な大自然は,研究で疲れた頭をリフレッシュする意味で,日本の温泉同様に最適なロケーションの一つだと感じた.


帰国直前に開催いただいたFarewell Partyでの記念撮影.Prof. Peter R. Herman(左端),Dr. Jianzhao Li(右から二番目)とPhD Candidateの皆さん.